だから、恋なんて。
苦し紛れに、言い出しにくかったことを口に出してみる。
「雫は…どうなの、その後…」
瞬間、目の前の千鶴が固まったのがわかって、隣に座る雫の方が見られなくて。
急に聞こえてきた他の個室の騒ぐ声にこの場がどれだけ静まりかえってるかわかり、吐き出した言葉をまた飲み込みたい気分になる。
動揺するとこなんてめったに見ない千鶴。
なのに、助け舟一つ出さずにわざとらしくメニューなんかに一生懸命目を走らせている。
ちょっと、姉さん、こんな時にあからさまに目を泳がせないでよっ。
なんか知ってたのなら先に言っといてよー!ヒドイ、ほんとヒドイ!私がヒドイ人みたいになってるー!
五十メートル競泳ばりに両目を泳がす私と千鶴。
シーンと静まり返る室内にバシャバシャと水音が聞こえてきそうな気もしてくる。