だから、恋なんて。

すっかり食べ物に意識はいってたけど、モニター音だけが響く中でICUのドアが開く機械音に挨拶をしながら振り返る。

「お疲れさ……って、なんでよ」

我が物顔で扉をすり抜けて歩いてくる顔が、全然変わってなくてすぐに誰だかわかる。

やっぱり、榊、アンタに勤務替わってもらったらよかったよと心の中で呟いて、悠然と歩いてくる医者に向かって頭を下げる。

もう今さらなんっとも思ってないし、ほんとどうでもいいし、ここは大人としてあくまでも普通に接してやる。

「お疲れ様です。患者さん、特に変わりありませんけど」

だから、あんたなんかお呼びじゃないのよって思いながらも顔には笑みを貼り付ける。

「やだなぁ、僕なんかICUから呼ばれたって大したことできませんよ」

その表情を読み取ったかのような返答に、やっぱりコイツ性格悪いと思う。

< 324 / 365 >

この作品をシェア

pagetop