だから、恋なんて。

手を伸ばせば触れる距離まで近づいたかと思うと、あからさまに私の左胸にチラリと視線を向け、口端をクイッと上げて馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

……気持ち悪い。

「…まだ独身?それとも失敗したの?」

はぁっ?なんでアンタが私にタメ口なわけ?ってか、勝手にネームプレート確認するなっていうの。

不躾な質問に固まる私をニヤニヤと面白そうに、値踏みするようにじっと見ている。

気持ち悪い、ほんっとに気持ち悪い。

簡単に脳裏によみがえってくる粘着質な声が、目の前のぼってりした唇から発せられている。

せっかく顔も忘れてたのに、何故だか口内を這い回る舌の動きさえも思い出して、吐き気をぐっとこらえる。

もう、早く出ていってよ。
こっちは用もないし、そっちだってICUには用がないじゃない。

そんな想いを込めてぎりっと睨みつけるけれど、心の中まで察してくれるはずがない。

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