だから、恋なんて。

目の前には数人のドクターが立っていて、そのどれもが見覚えのない顔。

唯一顔見知りの事務課長が師長に「新しく赴任されたドクターです」とか言ってる間にも背を向けたくてしょうがなかったけれど、そんなことをしたら逆に目立ってしまう。

師長が近くにいるスタッフに声をかけて、そのドクター達がぞろぞろとICU内に入ってくる。

仕方なく集まったスタッフの一番端に並び、極力視線は上げないように努める。

名前と専門科、以前いた病院などを簡単に話すだけの自己紹介。

取り立てて興味もなく、右から左に聞き流していた。

「結城 拓巳(ゆうき たくみ)です。もの覚えはあまりよくないですが、まずは看護師さんの名前を覚えたいと思います」


…はぁ?

およそ自己紹介とは思えない軽い調子に、思わず視線を上げると。

ちょうど顔を上げた視線の先にいたオトコと視線が合い、にこっと微笑まれる。

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