だから、恋なんて。

「はい、じゃあこれで」

ギャルソンの持ってきた伝票を見て、財布から数枚のお札を抜き取る千鶴。その額をチラッと横目で見てこれまた数枚のお札を千鶴に渡す雫。

「…いいの?」

二人の答えはわかってはいるけれど、一応上目づかいで二人を伺う。

「安いもんよ」

「そうですよ。四十路、おめでとうございます」

含み笑いで席を立つ二人は、誕生日のお祝いにここは奢ってくれるようで。

もう若いころのようにプレゼントを贈り合うこともなくなって、こうやって食事を奢ってもらうことのほうが多くなった。

それはそれで寂しいような気もするけれど、この歳になるとそれぞれの好みもなかなか難しいものがあるから、これが一番手っ取り早いのだろう。

会計を終えて、レストランの出口でギャルソンに見送られていると、何かを思い出したような千鶴がお店の中に入っていく。

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