だから、恋なんて。

またまた、「ごめん、ごめん」と繰り返す男は確実に笑っていて、今打ち付けた私の後頭部に手を伸ばしてくる。

「ちょっ、なんですかっ」

危うく、壁を背にその人に抱きしめられるような格好になりかけて、屈んでそこから抜け出す。

「あれ、やっぱダメ?二人にとって初めてのハグ記念日になりそうだったのに」

「はいっ?」

なんの冗談かと思いながら顔を上げて、両手を軽く広げてにこにこと笑う男を見つめる。

「あ……」

こいつ、あの、チャラ医者!

この医者の名前が何だったかもすぐには思い出せなくて、あの日ICUで聞いたふざけた挨拶だけが頭をかすめ…

そのチャラ医者がなんでこんなところにいるのか不思議に思って眉をひそめる。

いや、院内だし、職員だからめちゃくちゃ不自然ではないけれども、午前中のこの時間帯は普通なら外来診察とか病棟周りをしている時間なはずで。

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