山神様にお願い


 私はぼーっとツルさんを見た。・・・確かに、私、未だに泣いてないですけど・・・。ショック?それは受けていた、よね。でもそういわれると・・・うーん。

 眠れたし、食べれたし、笑えたし。

「だから、皆、もうシカちゃんの中でも彼氏に対する想いは薄れてたんだなって思ったのよね。今日も、笑顔全開だったでしょう。本当に悲しみにくれている人間て、どんな楽しいことしても暫くはやっぱり暗い影が出るものだと思うけど、シカちゃんにはそれがない」

 そんな風に見られていたとは思わなかった。私は口が半開きで中途半端に頷く。

「・・・楽しい、です、今日・・・」

 ボソッと言った。本当に、楽しんでいた。久しぶりの海も太陽も、風も浜辺でのランチも。塩で体がべたべたするのも肌が焼ける感覚も。

 ツルさんが、頂戴、って言ってソーダー水を喉をそらして飲んだ。ごくんごくんといい音を立てて。私は少し首を傾げてそれを見ていた。

「だから、虎さんもいけるって思ったんだろうねえ~」

 あ、思い出した。

 また顔が赤くなってきたのを感じた。うひゃあ~・・・急いでバタバタと手で顔に風をおくる。

「え、あの、ええと、て、店長って恋人さんはいないんですか?」

 ツルさんが苦笑した。

「いてこれなら問題でしょう?」

 ええ、まあそうなんですけど。確か~にそれはそうなんですけど!でも聞いたことなかったし・・・私はてっきり同棲している彼女さんとか、社会人だしいるのかなあ~って、勝手に・・・いや、そりゃ想像だけどー。


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