山神様にお願い


 ダメよ、騙されちゃ。ひばり、この部屋を出て行くの。

 そして、お母さんに挨拶をして

 今日で、辞めさせてくださいって・・・

 鼻が赤くなっていた。目も。涙が出てくるのを止めようとしているように見えた。

 私の頭はぐるぐると過去が回って、呼吸も忘れそうだった。ガンガン頭痛がした。結構な強さで重力を感じて体が重い。

 この子は、女性が好きなんだと思っていた。私ではなくても、女性であるということが、ポイントなのだと思ってきた。

 私が好きなのではなくて、女好きなのだと。性に対して興味があって、それを口に出来る子なのだと。

 それが、彼の性格なのだって。

 だけどだけど、この子の言うことが本当だったら―――――――――――――

 ずっと、私を、恋愛対象として見ていたら・・・。

「阪上君」

 確かに私が話しているのに、この口から出ているのに、どこか遠くの方から声が響いてくるような、そんな錯覚に陥っていた。

「ごめんね、阪上君」

 男の子は腕で顔を隠している。肩が震えているのを見ていた。その内に私は立ち上がって、鞄を掴む。無意識に忘れ物がないかを確認して、男の子の、部屋を出た。



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