山神様にお願い
「本当にセンセーって可愛いよね。でももう、いい加減に仕方ないね。諦めるよ僕」
「え?」
私はパッと顔を上げる。
「え?って・・・諦めなくていいの?」
「いえ!是非諦めて、別の女性と幸せな毎日をお過ごし下さい!」
うくくくく・・・と阪上君が笑った。そして、これ僕の分、とテーブルに小銭を置く。
「格好つけたいとこだけど、センセーは奢られるのも嫌いでしょ。じゃあね、もう本当に最後だね」
私はマジマジと彼を見た。
「・・・テスト、頑張ってね」
引っ込みのよさに戸惑いながらも一応そう言ってみる。なんせ、この子の家庭教師として3年も頑張ったのだから。クセはそう簡単には抜けない。
うん、と頷いて、阪上君は立ち上がりコートを着る。ふんわりとマフラーも巻いて、鞄を持った。
「センセー、さようなら」
「・・・さよなら」
私は彼を席から見上げたままで、呟くように言った。実際のところ、まだ疑っていた。だって悪魔のわりには引きが良すぎるって思ってたから。
阪上君は歩いていく。見送りに出てきた店の人に軽く頷いてお礼を言い、ドアに手をかける。
だけど、彼も面倒臭くなったのかも。もとより暇つぶしに私をからかいに来ただけだったのかもしれないし―――――――――