山神様にお願い


 今は伸びて長い茶髪を指で弄くりながら、龍さんがため息をついた。

「いやあ~・・・あの時までは、喧嘩も自信があったんだよ。相手の動きを見切れる目があるから俺は大丈夫だって。でもそれは、ルールがあっての話なんだなって判った。喧嘩上手にはルールも何もありゃしねーんだ。ただ潰しにくるんだなって」

 ほお~・・・と皆からため息が漏れた。

 ・・・それは、確かに怖いよね、店長。そう思ったんだった。

 無慈悲に暴れたわけではない。だけど一瞬で成人男性二人を気絶させることが出来る人なんて、そうそういないだろう。

 私がしばらくそうやってぼーっと過去の店長が切れた様を想像していると、ツルさんが、私のTシャツを引っ張った。

「ねえねえ、それで、今日のは結局トラさんにもメールしてたの?」

 途端に現実に引き戻されて、私はうっとむせた。

「・・・し、知りません・・・。だって私のケータイの履歴には残ってなんですもん・・・」

「調べられるだろ、そんなの」

「知りませんよ~。私は機械に詳しくないんです!」

 私が龍さんに言い訳をしていると、ツルさんが鋭く突っ込んできた。

「その生徒って子は、シカちゃんが好きなのよね?」

 何故かツルさんの尋問の矛先が私に向かいつつあるようだった。私ははあ~っと深いため息をついて、自分の夏までの生徒、阪上八雲なる少年がどういった人間であるかの説明をした。

 美形で、賢くて、腹黒くて、性悪で、しかも金持ちのぼんぼんだと。


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