山神様にお願い


 肩までの茶髪に3連のブルーピアスを入れている外見の派手な美形のリュウさんは、実は料理に関しては真面目な人なのだ。

 料理人でボクサー、高い身長にいかつい体、しかも明るい性格の美男子。軽い口調がその外見によく似合って、誰とでもすぐに仲良くなれる人。彼目当てで通う独身女性も結構いる。

 そのリュウさんは、俺の作った素晴らしい料理を味わわずに口に突っ込む客に、出す酒なんてねえ、とよく言っている。それには店長であるトラさんが、俺は出すけどね、客は客だよリュウさん、と突っ込んでいた。

「まあ奴らはちゃんと味わっていたし、バカな飲み方もしなかったから合格だけどなー」

 リュウさんがそう言って笑う。

 学生の一人が最初に一口食べたとき、うめえええええ~!!って大げさに叫んだことが彼は気に入ったらしい。それに確かに、うるさくはあったけどめちゃくちゃな飲み方はしていなかった。

「今日はきつかったな。ツルにも入ってもらえば良かった」

 古参で優秀なバイトを思ってトラさんがそう言いながらキャッシャーを締めるのに、俺はヒョイと顔を上げて聞いた。

「そうだ。そういえば、春に入ったあの新しい人・・・シカさん、どうなんですか?続きそうですか?」

 辞められると困るのだ。

 自分だってもうすぐ就活が始まる身分。学生同士、お互いに仕事に開ける穴を埋められたらいいな、と思っていた。

「あ、シカ?」

 途端にリュウさんがくくく、と笑った。

 トラさんもニヤニヤと笑いながら勘定している。


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