最後の愛コトバ。
「ってハル!今度飲みに来てよとは言ったけど!毎日来いなんて言ってないだろー!」

出会いから1年、ハルはほぼ毎日このバーこるくへと足を向けていた。

「えー、だってお酒好きだし!1人でテレビ見るのもつまんないんだよー!」

「いいじゃないの、カナメ。ハルちゃんのおかげで、僕らは今日も…うぅ…食ベテイケル。」

「ソーデス。ワタシノオカゲ。カナメ、カンシャ、シテクーダサーイ。」

「外人もどき、やかましい!」

カウンターでグラスを拭きながらハルとふざけあっている人は、中山武。

この店のオーナーであり、店長だ。

カナメはカウンター横からタオルを引っ掴むと、グラスを傾けるハルの頭をワシャワシャと乱雑に拭いた。

「こぼれるぅ。お酒こぼれるぅ」

「髪!風邪ひくだろ!風呂上りに来るなら、ちゃんと乾かしてから来なよ!」

「お母さんか!」

とツッコミつつもカナメにされるがままのハルに店長は微笑みながら、遠い目をしていた。

「ハルちゃんが越してきてもう1年だね~。」




あのダンボール事件の翌日、ハルはこの店の入り口に立っていたところをタケルに1杯ごちそうすると声をかけられた。

「あの、ほんとに悪いです。昨日のお礼言いにきただけなのに…。」

「いーの、いーの。カナメ、もうすぐ来ると思うし直接言ってあげてよ。あの子もまだこの店3ヶ月だから仲良くしてあげてよ。」

「あの、じゃあお金はちゃんと払わせてください!」

「僕、店長。それに、こうやって恩を売ればきっと君また来てくれるでしょ。」

ニカっと笑ったタケルは、ハルにチェリーの入った可愛らしいお酒を出した。

「未成年でしょ。ノンアルコール。」

決まった!という誇らしげな店長に、ハルは言った。

「私、25です…。」

ドリフのようにタケルが滑ったのは言うまでもない。
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