あの日もアサガオが咲いていた。
その音にハッと我に返った絢也が見上げた男の目には、もう先程までの幼さはなく。
声をかけてきた時と同じ大人の色に戻っていて。
あの瞬間に見えたものは勘違いだったのかと思ってしまうほどだった。
しかし、その口元の笑みが夢ではないと言っている。
「遅くなんないうちに帰れよ」
男は黒いハット帽を右手でかぶり直すと、そのまま紺色の世界へと姿を隠した。
喧騒に混じるように消えていく背中。
絢也は男が去っていった方をじっと見つめる。
行き交うクラクションの音がその姿を見えなくするまで。
絢也は知らない。
「────ちょっと無理矢理過ぎたか、な」
喧騒に紛れたその向こうで
「……でも…枯らすわけには、いかない」
そう男が微笑んだことを。