あの日もアサガオが咲いていた。
こんな表情をする人間を絢也は今まで見たことがなくて。
全てを手に入れた大人でも、夢見ることをやめた大人でもない。
だからといって、ただ大きすぎる夢を絵空事のように描くだけの子どもでもない。
まるで、まだ夢を追い掛けている途中のようなその顔。
そこまでの道を確実に歩いているような、そんな視線。
酸いも甘いも知っているであろうその瞳の色は、空から降り注ぐ輝きを受けて彼を先程までよりもずっと幼く見せる。
その視線の先に、無限の可能性が見えているようだった。
「ま、頑張れ。少年」
暫く二人で静かに空を眺めた後、そう一言呟いて絢也の頭を撫でた男。
そしてすっとベンチから立ち上がる。
カサリとビニール袋が擦れる音がした。