[完]バスケ王子に恋をして。
ーコンコン

昨日と同様に病室の扉を叩く。

「はい」

いつもの綺麗な声だけど……少し悲しげなのは気のせいだろうか。

「よっ」
「春樹くん……来てくれたんだ……」

ニッコリと笑う姿はやっぱりとてもつらそうだ。

「今日遅かったね」
「あぁ……今日はいろいろやることがあって一回家に帰ったんだ」
「そっか……」

奈未はそれっきり全く喋る気配がない。

このままだと気まずいから俺は昨日座った椅子に座って奈未の顔をジーッと見る。

「え?な、何?」
「奈未なんかあったんだろ?」
「……え?」

目を大きく見開く奈未。

そんな姿がいつもの奈未と重なる。

「今日の奈未なんか変だろ」
「……」

奈未は再び視線を下に落とす。

「俺でよかったら話聞くけど?」
「……え?いいの……?」

だって、奈未にはそれくらいしか出来ないんだから……。

「うん、どうしたの?」

問いかけるとやっぱり話しづらいのか下を向く奈未。

「ねぇ……私、なんなんだろ……」
「……は?」

いきなり訳のわからないことを言ってきて戸惑う俺。

「……私ね?昨日聞いたの。どうして私こんなに髪長いの?って」
「……え?」
「そしたらね……ママがお医者さん連れてきて……私は事故に遭って記憶がなくなちゃったんだって。今の私は……高校3年生なんだって……」

そういって奈未は静かに涙を流す。

「私……どうしようね……記憶……ないんだって……今の私はどんな人なの?今の私にはもう戻れないの?……知らない自分がいて凄い……怖いの……」

ーギュッ

気がつくと俺は奈未を抱きしめていた。

「は、春樹くん!?」
「春樹でいい」
「じ、じゃあ……春樹?」

久しぶりに名前が呼ばれて体がピクリと動いた。

「奈未……ごめん」
「……え?」

こんな俺でごめんな?

自分から逃げてばっかりでごめんな?

わがままかもしれないけど……俺はそんなことを奈未に犯してしまっても……奈未のそばにはいたいんだよ……。
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