幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜

二人の初々しい様子を、近藤は静かに遠くから見守っていた。



総司も、心に傷を抱えている。




そんな彼の傷を癒せるのは、やはり同じ傷を負った者なのかもしれない。




同じ痛みを背負った同士だからこそ、分かりあえることがある。




そして、譲の音色は確かに、総司の心に入り込んだはずだ。





譲の音色は、どこか人を惹き付ける。



普段は譲をよく思っていない弟子たちでも、譲の胡弓の音色にだけは、稽古中でも耳を傾けている。





近藤は、桜の木の前で酒を手向け、涙を流していた譲の姿を思い出した。




そういう境遇の持ち主だからこそ、あのような音色が奏でられるのかもしれない。




近藤は願う。




総司がこの困難から立ち上がれるようにと。



譲の音色が、総司の心に少しでも残るようにと。





それから―――。




譲が総司の要望で奏でた二つ目の曲が終わる。



気まずそうに無言で互いを見つめ合っている二人の手助けをするべく、近藤は二人を笑顔で迎えに行った。