ama-oto
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 あれからアパートの部屋に戻ったのは、日付が翌日になったころだった。電話を強引に切った後、2回着信があったけれども、出る気にはなれなかった。着信のたびに、申し訳ないという気持ち8割、あの子の頬にキスした事実2割が闘っていた。清人の中にある、本気の心配と、習慣を守っていれば誰も傷つけないという考えの中にいる自分というものを考えていた。

 まっすぐ帰りたくなかった。

 適当に時間を潰せる場所を探して、あてどなく歩いた。書店で本を眺め、適当に1冊選んで椅子に座って、活字を追いかけた。適当に雑誌を立ち読みして、適当に選んで購入した。適当にファミレスに入り、適当に食べ物を選んでドリンクバーを頼み、飽きるまで活字を追いかけた。内容を入れるではなく、活字を目で追い、時間だけを潰す行為に集中した。

 仲よさげな学生らしきグループが、ファミレスの中の温度を2,3度上げていた。その中で、完全に浮いていることなど気にせず、ひたすら文字を追いかけた。着信を無視して、ひたすら虚しい行為を続け、気がつくと23時を過ぎていた。無駄に時間をつぶしたことを少し後悔しながらも、万が一清人が家の前で待っていたりしたとしても、いないだろうと思えるになっていたことに安堵した。

 電車に揺られながら、清人の心配する顔と、幸せそうなあの子の笑顔が交互に浮かんだ。虚しい気持ちしかなかった。
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