ama-oto
 疲れて床にほんの少し横になったのを見るたびに、清人はすぐに起こしにきた。手にしている本だったり、雑誌記事のコピーを取り上げて、ぎゅっと抱きしめてくれた。活字中毒で、勉強中毒の私を否定しなかった。ふとできるすき間時間に活字を追いかけてしまう私を「しょうがないな」と受け入れてくれた。清人の抱きしめてくれる強さがとても好きだ。強いのに、ふんわりしていて、ほっとしてしまう。

 細くてゴツゴツしているのに、程よく筋肉がついている腕とか、きれいな背中とか、そっと触れるようなキスとか、時折くれる温かい言葉とか、ドアの前でひざを抱えて待っていたりするところとか…

 いとおしくて、今いないことがさみしくて、失うことが怖くて、涙が止まらなくなってしまうことばかりが、頭の中を駆け巡った。着信を無視してしまった自分の愚かさに情けなくなった。嘘なんかついて、いったい自分は何をしたかったんだろうという気持ちが心の底から湧いてきた。

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