朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
「少し、休も。オレも唇腫れそう」
トロンボーンを下ろし、譜面を閉じた遼の顔が、見えない。
視界に、赤と紫と緑色のうねりが、かかる。
唇の端から、生気が流れ落ちたような、急激な虚脱感に、私は黙って膝を付いた。
「…ハイツェーが…きっつい」
貧血かも知れない。
今朝、哲のくれた冷凍パスタを、食べきれなかった。
昼間、哲と行ったサンドイッチのファーストフード店で、トマトとオリーブだけを食べた。
ケーキを買ってくれたけど、そのまま冷蔵庫にしまい込んだ、まま。
夕飯は、帰ってから、何か食べ…る…かも知れない。
食欲が、ない。
「体調、悪そうね」
「…大丈夫、悪くないよ?」
金管八重奏のメンバーは、私とサヨちゃんだけが女の子。
サヨちゃんは、遼より一回り小さい、トロンボーンを吹く。
サヨちゃんの出す音は、そつがなく、アクもない。
お手本のような、きちんとした音。
楽器奏者の作り出す音って、人となりが、出るって本当なんだなぁ。