XXX、ベリーズ辞めるってよ
夕暮れ。

六月の終わりの陽は昨日よりも永く、吹き抜ける風は何故か冷たかった。

女は、思いつめた表情を浮かべ俯きながら歩いていると、その目に、

なんでも斬りますという手描きの看板の文字が飛び込んで来た。


看板の横には茶色い犬を抱き、虚ろな目をした侍がちょこんと御座の上に座っており、

腰に、本来あるべきはずの刀は無く“さや”しか刺さっていなかった。

怪訝な顔をし、女は立ち止まった。


「この、看板は?」

「え? ああ、これですか?

どうですか? ひとつ。なんでも斬りますよ」

侍は、うわ言のようにそう答えた。

「なんでも……、斬ってくださるのですか」

と、刀も持たない男に。

我ながらシュールな会話だと馬鹿馬鹿しくなり苦笑いを浮かべていると

「なんでもというわけではありません。

斬られるものに覚悟と、心さえあれば、それを斬ることは出来ます」


なんとも抽象的なことを目も合わさずに言う。
そのただならぬ雰囲気に、女は少しだけからかってやろうと思った。

「では、一体どうやって斬るというのです?」

脇に刺さるさやを見つめながら聞いた。

「刀ですか、そんなものは必要ありません」

照れるようにさやをいじった。刀は必要ないという。

「では、どうやって?」

「言葉ですよ、あっしは言葉で人を斬る侍なんですよ」

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