魅惑のハニーリップ
「すみません」

 宇田さんから体を離して、バッグからスマホを取り出して確認する。

「和久井……だろ?」

 見事に送ってきた相手を宇田さんに言い当てられて、驚きながらもゆっくりと首を縦に振った。

 宇田さんはけっこう勘の鋭い人みたいだ。
 そうでなければ、営業で常にトップの成績なんて無理なのかもしれない。

『遥ちゃん、今日はお疲れ様。また今度飲みに行こうね』

 和久井さんからは、そんなシンプルなメッセージだった。

「和久井、また会いたいって言ってきた?」

「あ、でも……きっと社交辞令ですよ」

「俺は違うと思うけど」

「……え?」

 再びゆっくりと宇田さんが私の腕を引いて、自分の肩にもたれさせる。
 やはり宇田さんの肩は広くて、カッコよくて、心地いい。

「遥ちゃんは危ないなぁ…」

「……なにがですか?」

「無防備だから」

「そ、そんなことないですよ」

「あるよ。今日だって俺がいなかったら、和久井に狙われてるの気付いてないだろ?」

 男の人はみんな下心があると言うけれど……
 でも、まさか和久井さんが私に気があるなんて信じられない。

「まぁ、俺がいる限り、そんなことさせないけどな」

 今のは……いったいどういう意味だろう?

 深く考えたらダメなやつだ。彼にとって私はただの後輩。

 宇田さんの好きな佐那子さんの後輩だもん。

 ただ、それだけだから……



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