魅惑のハニーリップ
 優子は残業をして帰ると言っていたけれど、私は先に定時で仕事をあがらせてもらった。
 和久井さんの指示どおり、向かいのカフェで甘いアイスカフェオレを飲みつつ、まったりと時間を潰した。

 外はまだ夜の闇よりも夕焼け色が濃い。
 私はせわしなく行き交う窓の外の雑踏をぼんやりと見つめた。

 そんな中、テーブルの上に置いていたスマホが着信を告げた。
 和久井さんかと思って画面を確認すると、全然知らない番号からだった。
 少しためらったけれど、鳴り続ける着信が気になって、おそるおそる出てみることにした。

「もしもし?」

『もしもし。遥ちゃん? 俺、宇田だけど』

「宇田さん?!」

 電話の向こう側にいる人物は宇田さんだった。

 ……いや、でも。
 どうして宇田さんが私の番号を知ってるんだろう。
 どんなに考えてみても、自分の番号を教えた記憶なんて一切ないのに。

 自分の記憶を懸命にたどりながらクエスチョンマークがいくつも並んだ。

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