魅惑のハニーリップ
「ただ、聖二は仕事ではいつもピシっと決めるクセに、恋愛となったらなぜかモタモタしてる感じなのよね」

「……はぁ」

「今のタイミングで決めなきゃ、遥ちゃんを和久井くん持ってかれるって私は感じたから。あとで後悔しないようにって、聖二にはメールで言ってやったの。でもそれだけよ?」

「……?」

「実際にデートを止めたのは、聖二本人だから」

 似たもの同士って……こういう人たちを言うのだろう。
 さっき、宇田さんも同じようなことを口にしていた。

『俺の意思だから』って。

「聖二は、遥ちゃんのことは本気だよ」

「……佐那子さん」

「ていうか、本気じゃなかったら怒るんだから! 遥ちゃんを泣かしたら、私が許さないわよ!」

 佐那子さんが冗談めかしてそんな風に言うから、お互いに声に出してケラケラと笑い合った。

 佐那子さんは素敵な人だ。
 私がどんなに背伸びしても届かないくらい、心が綺麗でやさしい人。

 少しでも佐那子さんみたいな人になりたいって、このとき本気でそう思った。

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