こっち向けよ
「あら、なにそんなにボーッとしているの?」
昼食を終えて数時間。
今は何時なのか分からないが、相当な時間をリビングのソファで過ごしている俺が変だと思ったらしい母さんが、とうとう痺れを切らして声をかけてきた。
「んー?別にー・・・」
ある一点を見つめ、そこから1ミリもずらすことなく母さんに生返事だけして、再び集中する。
今朝の、舞を思い出しては、幸せに浸るという、女みたいなことを。
ある一点とは、いつも舞が眠っているソファである。
反対側の向かい合うソファから、頬杖をついて見ている。
しゃーねーじゃん。
何年も恋い焦がれ、愛しつづけた女とやっと結ばれようとしているのだから。