トイレキッス
深夜、布団にはいっていた洋平は、いきなり大声をあげて飛び起きた。そして両手で顔をおおいながら、
「しまった」
とつぶやいた。
あの「恋愛上手になる本」を、いつ、どのようにして手にいれたのかを、思いだしたのである。
「おれのばか」
洋平は、掛け布団をはげしくたたいた。
淵上に貸したあの文庫本は、「恋愛上手になる本」ではない。「恋愛上手になる本」のカバーをかぶせたエッチな小説なのである。題名は確か「いけない女学生」だった。
中学一年生の頃に、父親の本棚からこっそりぱくったものだ。本物のカバーには、とてもいやらしい挿絵がのせられていたので、カモフラージュのために、同じ父親の本棚にあった「恋愛上手になる本」と、カバーをこっそり取りかえてから自分の部屋の本棚にしまったのだ。
淵上は、もうあの本を読んでしまったのだろうか。
そう考えると、洋平の顔は赤くなり、それから青くなった。
明日、淵上に怒られるかもしれない。
淵上の無表情が、静かにせまってくる様子を想像し、洋平は、布団をかぶって小さく悲鳴をあげた。