ある考古学者とその妻
最終兵器美形

麗らかな春の陽射しと、未だ冷たさの残る風にそよぐ栗色の髪。

生粋の日本人にしては明る過ぎ、緩やかに波打つその髪はとても人目を引く物らしい。
今時黒髪を探す方が大変だが、染めた茶髪と地毛の違いは明確だそうだ。
そんな訳で、僕は所謂「ハーフ」

何だかマーガリンみたいな響きで、好きじゃない。

でも、大好きなじいちゃんは「ダブル」だと言ってくれた。
父親の国、母親の国、二つの国の血を持つから…。とは言え、僕にとってはどちらも馴染みが無い人たちで、正直どうでもいい事だったが、じいちゃんがそう言うのだ。
それだけで僕は胸を張っていられた。

じいちゃんは周りの大人とは違って僕を邪険にする事も無く、一緒に遊んでくれたり、様々な(実生活にはあまり役には立たなそうな)事を丁寧に教えてくれる人だった。

子供みたいな人で、土いじりが大好きで、僕を連れて山や河原、果ては人様の庭まで掘り返して大喜びしていた。
土の中から掘り出されるガラクタにはしゃぐ姿は、今も鮮やかに蘇る記憶。
もしゃもしゃに絡まった白髪は顔半分以上を覆い、その髪の間に覗く瓶底メガネは、世の大人達が凡そ価値を見出す事の無いゴミを映して来た。
けれどそれは、じいちゃんにとっては宝の山であり、完全なるじいちゃん子である僕にとって、じいちゃんに捧げる大いなる供物だった。

じいちゃんはレンジが使えない、洗濯機も使えない、掃除機もダメな、実生活のスキルは限りなくゼロに近い人だったけど、掘り出したガラクタから過去の記憶を紡ぎ出す、魔法使いだった。
そして、僕は偉大なる魔法使いの弟子となった。




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