叶わない恋
その日あたしを迎えに来たのは泰介だった。

笑顔が怖くて下を見ることしかできなかった。悪魔のような笑みだった。

家に入ると泰介はいつも以上に優しくしてくれた。あたしの好きなものがご飯で、でてきた。めったに遊んでくれなくなったのに遊んでくれてお風呂も一緒に入った。

９時頃あたしを布団に入れて泰介はリビングに移った。その頃のあたしは母と泰介の毎日のように続く喧嘩で不安が募む眠ることがあまりできなくなっていた。

布団に入って１０分くらいたった時部屋の扉が開いて泰介が入ってきた。でもなぜか目を開けては駄目だと思い目をつぶり寝たふりをした。

泰介はあたしの顔を覗きこんでいるようだった。そして静かに喋りだした。


『知ってるか、眠っている時そんなに目は動かないんだ。』

言い終わると同時にあたしの頬を強い衝撃が襲った。驚いて目を開けると血走った目をした泰介が手を振り上げてそこにいた。そしてまた頬に強い衝撃が…。

『亜美？俺は出掛けてくるよ。ひとりで大丈夫だな？すぐ帰ってくるから安心して寝て待ってなさい。寝てな？いってくるよ。』

『はい…。パパいってらっしゃい』

泰介は何回かあたしを殴りまた布団に入れて出掛けていった。頬の痛みと母のいない恐怖、また殴られる恐怖、押し潰されそうだった。でも寝ないとまた殴られる、そう思い必死に目をつぶった。でも痛みで寝れるわけなかった。
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