「視えるんです」


はぁ……と深いため息。
そのままフラフラと、力なく廊下を進む。

そしてその先にある階段を……、




「……階段、を……」




……下りれない。

さっきの階段の怪談(決して洒落ではない)を思い出し、ピタリと足が止まって前へ進めない。




ーー「放課後一人で居る時に、踊り場にある鏡を見ると……目が合うんだよ」


ーー「背後に立つ女の幽霊と」




ゾクッ……

毛が逆立ち、背筋が寒くなる。

まさか、ね……あんなのは、ただの作り話だよ、ね。

それにもし……もしも、だよ?
もしも先生の話が本当だとしても、今は3時間目が終わったばかりで、放課後なんかじゃない。

放課後じゃないんだから、大丈夫に決まってる。
すぐにどっかのクラスの生徒が笑い話をしながら階段を上ってくる。 大丈夫、大丈夫。


……大丈夫、だよね?

…………

………………




「……なんで、誰も来ないんだろう」




声も、足音も、何も聞こえない。

いくら広い学校だとしても、こんなにも静かだなんて……ーー。




「手を」

「……っ……!?」




ーーあっ……。




「せん、ぱい……」




音もなく現れた本田先輩は、真っ直ぐに私を見て手を差し出していた。

それ以上は言わず、目で『掴んで』と訴えかけているようで。
私はそれに応えるよう、ゆっくりと……だけど確実に、先輩の手を握り締めた。




「音、聞こえますか?」




そう問われて気付く。

さっきまでの静寂が嘘のように、廊下は生徒たちの声で溢れている。


そして何事もなかったかのように、生徒が階段を駆け上がってきた。


……今の、何……?

まるで私だけが別の世界に居たような、そんな、違和感。

私だけが、“何か”を……ーー。


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