それでも私は人斬りだった。
情け
「お遼ちゃん。今日も夜行くの?」
店の中から、女将さんが険しい顔をして出てきた。
「しょうがないんですよ。梅さん。私が桂先生に恩返しできるのってこれくらいしかないんですから……」
その言葉に、梅さんはため息をついた。
「お遼ちゃんは、たしかに剣は凄腕だけど、なにが起こるか分からないんだから、心配させることだけは、しないで下さいね?」
「はい。気をつけます。」
梅さんの言葉を聞いて、私はつい笑ってしまった。
「お遼ちゃん?真面目に言ってるんだからね?」
「はい。すみません。」
ただ、梅さんの優しさが嬉しかった。
ここの店の人は、私の正体を知ってる。
知っていて、私に優しくしてくれる。
だから、私はこの店が大好きだ。
それと同時にこの店には、あまり迷惑をかけたくなかった。
「梅さん。今日は夜いませんので、戸締まりだけはしっかりして下さいね?それと……」
私がそう言うと、梅さんは少し怒ったような鋭い口調で言った。
「お遼ちゃん。大丈夫よ。最近はいつものことだからもう慣れました。」
「そうですね。」
‘いつものこと’
という言葉が妙に胸に響いた。
梅さんは、本当は私に行ってほしくないんだろう。
でも、私は行くしかない。
私を育ててくれた桂先生のために。
桂先生の夢見る未来を作りあげる。
それが、私の人を斬る理由だった。