実は彼、ユーレイでして。
ポロッ、ポロッ、と、涙が頬を伝った。
ぽすっ…と、あたしは雫の胸に顔をうずめた。
「ばあちゃんな、引き継ぎの時色々話してくれたんだ、唯のコト。自慢の孫だって。17歳で一人前に一人暮らしして、勉強もちゃんとできて、料理もお裁縫もできて、立派だって。お小遣いあげれないのが悔しいってさ、ハハハ」
冗談っぽい口調で、雫が耳元でささやく。
「唯が前に進もうとして一人暮らしを始めたコトも、ばあちゃんはちゃんと知ってる。嬉しかったと思うよ。だからさ、唯は、これから一生懸命生きたら良いんだ。唯が生きることが、守護霊にとってこの上ない幸せなんだから」
雫の優しい声が、あたしの胸にすうっと染み込んでいく。
「分かった、唯?」
「…うん」
「つまり、俺も嬉しいワケ。唯が生きてるだけで」
「…バイトなのに?」
「当たり前だろ」
「…ふぅん」
「だからな、唯。泣いてもいいんだ、キツかったら。ただ、生きろ。その手助けは、俺がする」
「…うん」
「よぉし。いい子、いい子」
結局、あたしは昼休みと5限の間中、雫の胸の中で泣いていた。
家族を失ったあたしを心配してくれるヒトは、今までにもちゃんといた。
叔父さんをはじめとした、近い親戚のみんな、中学高校の友達、果ては近所のおじさん、おばさんに至るまで、みんなあたしの身を案じて、言葉では言い尽くせないような手助けをたくさん、たくさんしてくれた。
だけど、当のあたしは子供ながらに「ありがたい」と思いながらも、「大丈夫」「もう平気」だなんて強がって。
泣くのはひとりきりのときだけと、自分で決めていた。
ひとりだけのときに、泣いて、泣いて、泣いて。
涙なんて一滴残らず、とっくに流し尽くしたと思ってた。
でも、なんでだろう。
雫の一言で、何年ぶりかに、涙が出てきて。
しかも、その涙は今まで流してきたそれと、何かが決定的に違っていた。
なんて言ったらいいのか。
雫の言葉には、なんだか重みがあるっていうか。
うまく言えないけど、雫が言ってくれたからこそ、あたしはちゃんと泣けたんだって。
ただ漠然と、そう思えた。
その間、雫はあたしの髪をずっと優しく撫でてくれていた。実体化にはエネルギーを使うはずなのに、ずーっと、小さな妹をあやすように。
雫の温かい身体を通して、心臓の鼓動がドクン、ドクンと、あたしの身体に伝わってきて。
あたしはただただ雫の優しさに甘えるように、あとからあとから溢れる涙を拭うこともせず、雫の胸の鼓動をずっと聞いていた。