sound village



「俺はね。

柏木に、“投げ出す”とか
“上に責任を取らせる”とか
ダメな自分や、だらしない
自分を許諾する事を、
覚えて欲しいわけよ。」


“万能な人間なんて居ないしな”
サイドブレーキを引きながら
テルテルは、溜息をつく。


「アイツの視野は、よくも
悪くも、新人のものじゃない。

本人のプライドっつうより、
ありゃあ、アイツの癖だな。」


それは、私も感じていた。


私への気遣い、
神島くんと斐川くんへの
フォローのタイミングと
スキルの高さ。

その能力は、普通、
新卒採用に期待しないし
出来たもんじゃない。

それを、彼は、あっさり
成し遂げてしまう。


「アイツの経歴、バスケ誌の
バックナンバー読み漁って
みたんだけどな。

ずっと、進学する先々で
主将やってたみたいだな。

ありゃあ、無意識で
やってんだな。」


“えらい大物な後輩共の守を
していたみたいだしな…
神島も柏木も相当苦労人だぞ”

そう笑いながら、助手席から
ヨロヨロの私をゆっくり立たせ
テルテルは杖代わりになってくれる。


「じゃあ、パソコンは終業後
持ってくるよ。

到着時間の目安メールするから、
ゆっくり玄関開けてくれたら
いいからな。」


「うん。わかった。
時間取らせてゴメンね。」



……ホント、コイツは

……いいオトコ。


なんで、私は、
テルテルを選べなかったのだろう。



いや、そんなことは、
もう、いい。

随分昔に、済んでしまったこと
なのだから。


参謀であることを選んだのは
私なんだから。


テルテルの話を聞き流しながら
漠然と、若かりし日の
自分達の選択を思い出したり
していた。






  
  


  




  




















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