sound village

口説き文句**sideレン

 

“お見合いちゅうのは、あれだ。
案外気楽だぞ?仲介人を介して
断ればいいんだから。

よっぽどの事が無い限り一見だ。
公式だから、断れば二回目は
普通はないんだぞ。”

じゃあ、断っていいってこと?

部長の甘言に流された
過去の自分をヘッドロックして
やりたい…

蓋を開ければ、話を進める事も、
断る事も、超悩める相手だった。
部長が言った“二回目はない”は、
柏木君が言った言葉じゃないかと
思っている。

断れば、彼と配偶者として
共に進む未来はない。
柏木君の、珍しい年齢相応の主張と
自分の計算づくめの主張と、気候で
頭がグルグルしてくる。

何とか、私のお年頃のヒトと
結婚するという事は、実際
どういう出来事に遭遇するか等、
伝えるべき事は伝えた。

考え直すべきだと―――――

でも、決定的に拒否する単語が
一つとして、口をつかない。

だって…

「なぁ、レンちゃん。」

ずっと黙って私の話を聞いていた
柏木君の呼びかけに、ハッとする。

「レンちゃんは…俺が
他の女の子と一緒に居ても平気?」

正午に近づいた太陽が、
柏木君を背後から照らす。
長引く緊張と逆光でクラクラした。

「おっと。あぶね。」

そんな声と一緒に、ポスンと
何かに包まれた。
ああ、軽い眩暈を起こしたんだ。

抱きしめられた腕の中
ポンポンと肩越しに感じる
リズムが心地いい。

「さて、日陰に行きますか。」

まだちょっとおぼろげな視界を
考慮してか、彼は私の肩を
抱いたまま歩き出した。


 




 






 









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