きみだけが好き。



「花帆ちゃんは優しいよ。 それからクラスは違うけど、花帆ちゃんのこと見てたの」


「えっ…?」


 未琴ちゃんの顔は、笑顔だった。


「友達も…つまり、紫月のことなんだけど、花帆ちゃんのこと本当に大好きなんだなって思った。 それに、花帆ちゃんって誰かに体操着、貸してたでしょ?」


 …体操着………って、そうだ。


「私、体操着を忘れた子に貸したかも」


「うん。 その子が着てた体操着に、『森田』ってあった。 花帆ちゃんの名前は、よく紫月が呼んでたからわかってたんだよ?」


 未琴ちゃんは、あはっ、って笑った。


 そう言えば、4月……クラス替えがあって、席に着いたとき、未琴ちゃんが話しかけてくれたんだよね。 その時名前を呼んでたから私が『どうして名前知ってるの……?』ってきいたんだった。


 その時、未琴ちゃんは『黒板に書いてあるから』って言ったんだ。


 そっか、その時、すでに知ってたのは1年生のころから私と友達になりたいって思ってたからなんだ…。


 私、未琴ちゃんのこと…何も知らなかった。


「未琴ちゃん…ごめんね」


「え! なんで花帆ちゃんが謝るの?」


「私、何も知らなかった…。 私と友達になりたいと思ってたことも、未琴ちゃんのことも…」


 何ヶ月も未琴ちゃんと一緒にいたのに、わからなかった…。


 目からあふれた涙が、ひと粒、またひと粒と頬を伝う。


「泣かないで? …あたし、今幸せだよ」


「╼╼╼えっ」


 未琴ちゃんは私を優しく見る。


「花帆ちゃんと、それから紫月とも友達になれたから。 それとね、花帆ちゃん」


 さっきまでの暑さはなく、今は涼しくも感じる。
 
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