private lover ~大好きな人の前で他の人に愛を誓う時~
 梅雨を前にした六月の空にはグレーの分厚いカーテンがかかっている。

 ヒンヤリとして、湿気った空気がまとわりついてくるような感じ。

 その中を歩いて、一番近くにあったベンチに、腰かけた。

 じっとりとした冷たさと素材の硬さが服を通して伝わってくる。

 私が切り出すべきだよね。


 「ウチね、寿クンが、別れること前提でっていうのを
 オッケーしてつき合ったの。だからホントはね、ウチが悪いの」


 喋るために私が息を吸ったとき、奈々が話し始めた。


 「卒業したら婚約するかもしれないって。だから別れる前提でって。
 だけど、気持ちって、どうしようもないものだよね」


 明るい感じの声で、奈々は膝を見つめて訥々語る。


 「ウチだって、人のこと勝手に好きになっちゃうのに、
 寿クンやミッキーの気持ちとか、考えてなかった………」


 そこで奈々はちょっと切なそうに笑った。


 「ウチね、何となく分かってたよ。だからねミッキー」


 膝の上の両手をギュッと握って、奈々は私を見る。


 「もういいよ。我慢しないで?」


 ニッコリ笑った奈々の顔。

 春の日差しみたいに柔らかくて優しくて、失恋の悲しさとか

 辛さとか、心の奥に押し込んでるんだなって、思った。


 「ミッキーも寿クンのこと、好きなんでしょう?」


 ドクン……

 まるで、自分の気持ちの存在を確かめるかのように、

 心臓が一度だけ、痛いくらいにはっきりと鼓動した。


 「まだね、ウチ、寿クンのこと好きだよ……考えるとね、
 ドキドキするし、ちょっと悲しい。だけど、届かないから……」


 言葉を選びながら喋る奈々の声に、またドクンて、心臓が軋む。


 「失恋は苦しいけど、でも……きっともうすぐ、
 立ち直れると思うんだぁ………」

 「ごめん奈々」

 「うん。仲直りしよっ?」


 奈々は右手を差し出した。


 「ありがとう」


 奈々の手は、温かかった。
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