黄色い線の内側までお下がりください

「何か...あったんですか?」

「......電車にね...」

 その後は聞かなくても分かる。

 飛び込んだんだ。

 でも、なんで? そんなことしそうな感じには見えなかったし・・・ 元気だった。確かにあの時はショックを受けていたけれど、時間とともにいつもの用賀を取り戻して行った。


「あの子ね......同じ駅なのよ」

「うそ...同じ?」

 同じ駅?

「そう、だからきっと、そうね。ずっと忘れられなかったのかしらね、あの子」

 母親はわっと泣き出し、父親の胸に顔をうずめる。

 桜は呆然と立ち尽くし、作業員が荷物を運び出す様子はスローモーション画のように目に映った。

 どのくらいその場所にいたのか分からない。

 どうやってそこから家に帰ったのかも分からないが、気がついたら自宅の前で鍵穴にカギを差し込むところだった。

 高津用賀の家の近所に住んでいたのがよかったのか悪かったのかはさておき、もう会うことはできない彼氏の突然の出来事に動揺し、この先いったいどうしたらいいのか、どうすべきなのかも分からなくなっていた。

                                                                                                             
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