「約束」涙の君を【完】
先輩女子の前に、午前組の制服に着替えている女子たちと、
まだ何人か残っていた午後組の衣装に着替えている女子たちが、立ちはだかった。
「なんすか?先輩なんすか?
うちの水沢、なんかしました?」
午前組の女子が先輩に詰め寄った。
「いや、なにって、ちょっとそれは言えないんだけど」
「うちらも行っていいっすか?
一人じゃ勝てないと思うんで」
「え?勝つ?え?
まぁ……ついて来ても全然いいけど」
「んじゃあ、行かしてもらうんで。
みんな行くよ」
ぞろぞろと先輩の後をついて体育館へと向かった。
私は杏に手を繋がれて、
一体なんなんだろう……と、
不安になった。
「なんで優衣を呼び出すのかなぁ。
また、祥太の関係か?あいつもてるからなぁ。
でも、大丈夫だよ、こんだけいれば。
みんな、優衣が好きなんだね」
「私が……好き?」
歩きながら杏は、話し続けた。
「そりゃそうだよ。
優衣のこと好きじゃなきゃ、
優衣の髪型とかメイクをこんなにかわいくするわけないでしょ?
それに、みんな心配してこんだけついてきてくれてんじゃん。
優衣がいい奴だって、みんなわかってきてくれたんだよ。
なんか、私も嬉しいな……」
杏……
そして、先輩が体育館のドアを開けると、暗幕で暗くなった体育館に人がいっぱいいて、
音楽がガンガンに流れていた。
「ん?なんだこれ?」
みんな背伸びをして中を覗いた。
「舞台に結城くんがいるけど」
え?祥太?
どれどれと、みんなで舞台の方まで人混みをかき分けて進んで行った。
一番前まで行くと、本当に祥太が舞台に立っていた。
「あ、彼女さんも到着したってことで、
舞台に!」
へ???
先輩に腕を引っ張られて舞台に上げられ、
よくわからないまま祥太の隣に立った。
「ねぇ、彼女かわいいですよね。
彼氏も超絶イケメン!
東高祭ベストカップルコンテスト最優秀賞おめでとうございます!!!」
最優秀賞……?
「えぇぇぇ!!!」
舞台の上で大きな声を出してしまい、
思わず口を抑えた。
渡された花束を受け取ると、
「何か一言。じゃあ……彼女さん」
と、マイクを向けられた。
一言?いきなり?
舞台から、目の前に立っているクラスの女子たちが見えた。
「よかったね!!水沢さん!!」
「おめでとう!!」
「うちらも嬉しいよ!」
と、手を振ってくれた。
いっぱい心配してくれて、こんな……
自分のことのように喜んでくれて……
「あ、あの……
1年3組の人たちに。
ありがとう……
優しくしてくれて……ありがとう!!
私……いろいろあって、
友達なんかできないって思ってた。
はぶられるって思ってた。
だから……
この学校に来てよかった。
1年3組になれてよかった!!
これからも仲良くしてください!」
コンテストと全然関係ないコメントをして、
周りからはドン引きされたけど、
クラスの女子たちに伝えたかったから、
私は言えてよかったって思った。
それから、舞台から下りると、みんな手を叩いて喜んでくれた。
「優衣!よかったね」
「おめでとう!優衣!」
優衣……
何時の間にか、みんなが水沢さんじゃなくて、
『優衣』って名前で呼んでくれるようになっていて、
すごく嬉しかった。
この文化祭で、このクラスの本当の仲間になれた気がした。