「約束」涙の君を【完】
思わずとうもろこしから手を離した。
「なんかいた!」
そう言うと、祥太はそのとうもろこしを拾って、じっくりと眺め出した。
「なんか…いるでしょ?」
祥太は、「あぁ」と冷静だった。
「あおむしだ。モンシロチョウの幼虫だよ」
祥太はじっくりとあおむしを観察していた。
「こっちくる前に、あおむしを捕まえて飼ったことがあったんだけど、
ハチに寄生されていたあおむしだったみたいで、
すっげーことになった」
「ハチ?きせい?
すっげーことって?」
「優衣は聞かない方がいいんじゃないか?あははっ」
おばあちゃんが笑った。
「寄生したハチの名前がおもしろくて、
『アオムシサムライコマユバチ』って言うんだ。
結局アオムシはモンシロチョウにはなれなかったけど、
それはそれで、勉強になった」
じっとアオムシを見ている祥太を、おばあちゃんは優しい眼差しで見つめていた。
「虫が好きなんだな…祥太は」
おばあちゃんがそう言うと、祥太は頷いた。
「こっち来る前は、東京に住んでいたんだけど、
東京っていっても自然豊かなほうだったから、結構虫とか普通にいたけど、
やっぱここは違う。
全然違う。
生き物の種類も多いし、なんかでかいし、
この前、初めて本物のオニヤンマを見たんだ。
すっげーって思った。
家から歩いてすぐの所に川があって、魚が普通に泳いでいて、
こんなに俺の好きなものがいっぱいで…
俺、本当に…
ここが好きなんだ。
好きなんだ……」