「約束」涙の君を【完】




家に着いた時は、もう薄暗かった。



車を降りると、


おじいちゃんとおばあちゃんは、何かを話し合っていた。


そして、おばあちゃんがインターフォンを押すと、


「はい、開いてます」と、


お父さんの声がした。



3人で玄関に入ると、

廊下でおばあちゃんが立ち止まった。


「優衣は、自分の部屋にいな。

そんで、荷物をまとめておきな。


わかったか?


今後のことを話し合おうってお父さんには言ってあるんだ。

あとは、元役所の人間のじいちゃんに任しておけ。


大人には書類だ手続きだぁ、めんどくせーことがあるからな


ばあちゃんが部屋にくるまで出てくんな。

わかったな」



おばあちゃんは、私の背中を押して、

部屋の中に入れ、ドアを閉めた。



書類?手続き?


今後のこと……


とにかく大きめのバッグに荷物を入るだけ詰め込んだ。



タンスの中も、机の引き出しの中も…



……この石……




久しぶりに祥太からもらった石を手にした。


その石を部屋の明かりにかざすと、



やっぱり瑠璃色に輝いた。




私はその石をぎゅっと握ると、

ポーチに入れてバッグにそっと入れた。





ガタンガタンと何度か玄関の扉の音がして、


外が気になった。



おばあちゃんがくるまで出てくるなって言ってたけど……




気になって外に出ようとしたその時、


トントンと部屋のドアを叩く音がした。


そっとドアを開けると、


おばあちゃんが立っていた。



「優衣」




おばあちゃんは、目を真っ赤にしていた。



「学校もずっと行ってないで、


部屋にこもってたんだなぁ……


早く気づいてやればこんな……


ばあちゃんが悪かったなぁ……


ごめんな……優衣。



ごめんな……」


顔をくしゃくしゃにして泣いているおばあちゃんに、

私は抱きついた。



いつの間におばあちゃんは、私よりも背が小さくなっていたんだろう……




「優衣、ばあちゃんちに帰ろう。


ばあちゃんと、じいちゃんと3人で暮らしてくれるか?」




私は、抱きついていたおばあちゃんから顔をあげて、


何度も何度も頷いた。






「ばあちゃんが、優衣のお母さんを、ちゃんともっと強い子に育てていれば、



こんなことにはならなかったのに……


みんな、ばあちゃんがいけなかった。


ごめんな」



おばあちゃんは、何度も謝っていた。



私は何度も、その度に首を振った。





「でもな、

親バカかもしんねぇが、


優衣のお母さんは、優衣を不幸にするために、残したんじゃないと思うんだ。



もし自分が優衣のお母さんと同じように、
癌で余命宣告されていてな、

旦那もいなくて、上の子に障がいがあって就職が決まんねぇってなったら、





まず、考えるのは、下の子の将来だ。





自分が死んだら、上の子をみるのは、下の子だ。


優衣だ。


優衣がお兄ちゃんを背負うことになる。





ばあちゃんの娘なら、そう考えんじゃねぇかって思うんだ。



だから、



優衣を嫌いだからとか、


優衣を苦しませるために、


お母さんは優衣を残したんじゃない。





優衣の幸せを願って残したんだ。





だから、優衣。



幸せになりなさい。



幸せになれ!優衣!


あんたは、幸せにならなきゃいけない!」




幸せに……



お母さんが……










「ばあちゃんもじいちゃんもついているからな。


ばあちゃんの……



いや、優衣の家に帰ろう」




おばあちゃんは、私の肩を叩いた。





「はぁ……はぁ…はぁ……!!」



ありがとうって言いたいのに、


声が出ない。



この家から、



どん底から、



救ってくれるおばあちゃんに、


感謝の気持ちを伝えたいのに、



頭の中では、いっぱいいっぱいありがとうを言っているのに、



声がでない。




涙がポロポロとこぼれ落ちて、


息しかでない、

声にならないありがとうを、


おばあちゃんは「うん、うん」と頷いて受け止めてくれた。







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