意地悪な彼が指輪をくれる理由




「中学時代ずっと好きだった先輩に会うんですよ」

私がそう言うと、祐子さんは眉間に深くしわを刻んだ。

「どうなってるかしらね、その先輩」

「どういう意味ですか?」

祐子さんはここが売り場であることを思い出し、形だけは笑顔のしょっぱい表情をした。

「私も30歳の時、中学の同窓会があったのよ」

「へぇ、いいなぁ楽しそう」

「好きだった男子も来てたの。でも、会わなきゃよかった」

祐子さんはしょっぱい顔のまま微かにため息をついた。

好きだったのに会わなければよかっただなんて、一体どういう意味なのだろう。

「何か酷いことでも言われたんですか?」

「違うよ。逆。口説かれたの。子供がいること隠してたし、結婚してないって言ったから」

「きゃーっ! 良かったじゃないですか!」

「良くない!」

現実とは、夢もへったくれもないシビアな世界だ。

女がオバサンになっていく以上に、男はオジサンになっていく。

つまり祐子さんが好きだった彼は、すっかりオジサンになってしまっていたということか。

祐子さんは30代半ばだけど若々しくてオシャレでキレイだから、それはそれはモテたに違いない。

「男も25歳過ぎたら分かれるのよね。昔はすっごくカッコ良かったんだけど、その分期待してたから裏切られたときのダメージったらなかったわ」

そんな現実、忘れてた。

だって瑛士が期待以上だったから。

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