意地悪な彼が指輪をくれる理由
「いや、彼女はこういうシンプルな方が好みだと思う。俺、これにするよ」
「決めるの早っ! 他のは見なくていいの?」
「いいよ。俺、これかなり気に入ったし、真奈美のオススメなら間違いないと思うから」
「ほんと? ありがとう!」
気に入ってくれて良かった。
願わくば、彼の恋人も気に入ってくれますように。
「サイズは何号かわかる? わかればすぐに刻印に出せるけど」
「確か9号。違ったらどうしよう」
「基本的に返品はできないけど、2週間以内ならサイズ交換が可能だよ」
「そうか。助かる」
「刻印しちゃうと交換できないから、今日はこのまま包むね」
「ああ。よろしく」
「じゃあ、伝票作るから、この書類の太枠の中、書きながら待ってて」
在庫の引き出しからまだ誰も触れていないアリュールの9号を取り出す。
ジッパー付きのポリ袋に入れられているそれを、指紋などが付かないよう、手袋を装着して開封。
一度クロスで丁寧に磨き、小さな丸いケースへと収めた。
ギャランティーカードをできるだけ丁寧な字で記載して、瑛士の元へ戻る。
伝票は瑛士らしい角張った字で埋められていた。
ちらり、住所の欄を見てみる。
区は違うが、まだ横浜市内には住んでいるらしい。