意地悪な彼が指輪をくれる理由


落ち着くためにシャンパンを飲もうと思ったけれど、指が震えてグラスをうまく持ち上げられない。

諦めた私の左手に、秀士先輩の温かい手が重なった。

「君はもっと幸せになるべきだ」

その言葉に、これまでの報われない恋を思い起こす。

初恋の相手であるこの男に始まり、浮気されたり、既婚者に騙されたりもした。

お人好しで騙されやすいこの性格で、どう幸せになれって言うの?

いつかきっと、ちゃんと私を愛してくれる人が現れる。

そう信じて恋をしてきた。

そして今たどり着いたのが、大川瑛士だ。

「本日のアミューズでございます」

料理がやってきた。

アミューズ、オードブル、スープ。

入り口ばかりが気になって素直に食事が楽しめない。

「美味しいね」

秀士先輩は穏やかな表情で私を見守っている。

「本日の魚料理でございます」

付け合わせの野菜と共に美しく盛り付けられた料理。

香ばしい香り。

こんなに美味しいのに。

憧れの秀士先輩とのデートなのに。

こんな気持ちで過ごすなんてもったいないのに……。

秀士先輩がチラリと腕時計を確認した。

「もうすぐ9時だね」

店に入ってから一時間。

瑛士は来ない。

「倉田」

「はい」

「これは、俺からの提案なんだけど」

魚料理を綺麗に平らげた秀士先輩が、ナイフとフォークを揃える。

「もし瑛士が来なかったら、俺と付き合わない?」

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