意地悪な彼が指輪をくれる理由

「ああっ! もう!」

秀士先輩は投げやりに叫び、私に飛びついた。

抱きしめられている形ではあるが、さっきのまでの色っぽい雰囲気はなく、ぎゅうぎゅう力任せに締め付ける。

抱擁というよりはイタズラだ。

「ちょっ……せんぱ、くるし……」

「うるさい。今この瞬間くらい俺のせいで苦しめコノヤロー」

「ええっ?」

十数秒後、先輩は気が済んだのか、突然パッと離れていった。

鈍っていた血流が勢いを取り戻し、ドクドクと手足を巡る。

秀士先輩はベッドの上でどかりとあぐらをかき、私も体を起こした。

不機嫌な彼の顔を見ると、自分からは何も言えなかった。

「倉田。お前には損得勘定の概念がないのか?」

「ありますよ、たぶん」

「嘘つけ。お前は純粋すぎる」

「すぎるって言われても……褒めてるんですか?」

「けなしてるんだよ、一応ね」

急に始まった説教。

私は自然と背筋を伸ばし、正座をしてしまう。

「瑛士、ああ見えて気が弱くて優柔不断だぞ」

「知ってます」

「そのくせ口は悪いし、わがままだぞ」

「知ってます」

「おまけに現在無職だぞ」

「えっ? MRは?」

「辞めやがった」

それは知らなかった……。

夏に転職を考えていると言っていたけれど、本当に辞めちゃったんだ。

秀士先輩はネクタイをドレッサーに放り投げ、ベッドに寝転がった。

「倉田、これからどうするの?」

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