意地悪な彼が指輪をくれる理由
「いらっしゃいませ。どうぞご覧くださいませ」
冬がきた。
クリスマス間近、ジュエリー業界は書き入れ時を迎えている。
この時ばかりはMビルのこのフロアに男性客が目立つ。
祐子さん、ももこ、そして私。
開店から閉店までフルスタッフでの営業も、天皇誕生日の今日までだ。
「みなさん、お疲れさまです」
生意気ドSマネージャー、木元がやって来た。
外はよっぽど冷えているのか、頬と鼻が赤くなっている。
「お疲れさまでーす」
マネージャーはコートとカバンを裏へ置き、いつもの黒い手帳を開いた。
そして帳簿を広げた祐子さんと、何やら売り上げ関係の話を始めた。
……と、思いきや。
「ねえ、赤いよ?」
祐子さんが両手で木元マネージャーの頬を包む。
マネージャーは慌ててその手をどけさせた。
「こんなところで何を考えてるんですか!」
「ごめんなさい、つい」
彼の顔は余計に赤くなっている。
私はそんな二人の様子をチラ見しながら、小さな声でももこに話しかけた。
「ねえねえ、ももちゃん。あの二人、なんかラブラブじゃない?」