意地悪な彼が指輪をくれる理由

「今日、静かですね」

私の視線に気付いた隣の店員、磯山(いそやま)さんが微笑む。

「ほんと、そうですね」

私もうふふと笑いかける。

磯山さんは先月入った新人さんで、今日が初めての一人営業だそうだ。

「店長たち、どうしてあんなに仲悪いんでしょうね」

ほぼ毎日行われる火花の散らし合いに、彼女はまだ慣れていないらしい。

「きっと、ああやってじゃれてるだけだと思いますよ。あの二人、似た者同士だから」

噂によれば、笹塚店長もバツイチで、シングルマザーらしい。

祐子さんも笹塚さんも、互いをライバルであると見なし、負けられないと闘志を燃やしているのだ。

職場がライバル関係でなければ、境遇も似ているし、きっと良い友達になれると思う。

「そういえばずっと気になってたんですけど、倉田さんのそのネックレス、すっごくキレイですよね」

お気に入りのネックレスを褒められた私は、この瞬間舞い上がった。

「でしょう? 私、一目惚れしちゃって。入荷と同時に即買ったんです」

このネックレスの良さは、同業者ならわかるはず。

磯山さん、新人さんにしてはなかなかいい目をしてるじゃない。

「輝きが違いますもんね。でも、お値段結構したんじゃないですか?」

「えへへ、まあ、そこそこ」

楽しいな。

営業中だけど会話が弾む。

本来隣のテナントさんとの関係って、こんな感じなんだろうな。

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