もっと傷つけばいい
謝った男は小さく会釈をすると、また歩き出した。

ポトッと、男の躰から何かが落ちる。

それを拾って見てみると、名刺入れだった。

「すみません」

あたしはそれを拾うと、男を呼び止めた。

男が足を止めて、振り返ってあたしを見た。

「落としました」

あたしは名刺入れを男の前に差し出した。

「どうも」

男は会釈して名刺入れを受け取った。

それから先を急ぐように、また歩き始めた。

忙しいんだな。

あたしは男とは逆の方向に、また歩き始めた。
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