四竜帝の大陸【赤の大陸編】
【幕間】青の竜騎士セレスティス

天に哂い地に吼える 1

「うん、いってらっしゃいカイユ」

僕は携帯用電鏡を上着の内ポケットにしまい、染まる空を見上げた。

「ジリ、あの人にくっついて行っちゃったのか。ふふっ、頑張ったね。……赤の大陸か。最高速休憩無しで飛ぶだろうから、明後日早朝には着くね」

どのくらいそうしていたのか。
残光に彩られた空を飾るのは星々に変わっていた。
その瞬きが色を見ることの出来ない僕の目から入り込み、脳内で火薬の火花のように爆ぜる。
いっそ全てを破壊してくれればと願わずにはいられない、中途半端な痛みが心臓を撫でていく。

「カイユ、どこまで進んだかな? もうセヂオデ諸島は通過したのかなぁ……」

メリルーシェの支店の屋上に立つと、街が一望できる。
4階建ての支店は、この街ではひときわ目立つ高い建物だ。
王都でもあるここは建物の高さに厳しい制限が設けられているが、支店は<青の竜帝>の持ち物なので規制の対象外になっていた。
この建物がなぜ対象外なのか?
それは、王の力が<青の竜帝>に及ばぬから。
この街の人間達は支店を見上げるたび、<四竜帝>の前では人間の王など小さき存在であると思い知る。

「ずっと屋上に居たんですか? セレスティス、風が冷たくなってきましたから事務所に戻りませんか?」
「これくらいで寒いのかい? 年取ったねぇ、バイロイト」

閉店準備を終え屋上に来たバイロイトは僕の隣に立ち、柔らかな笑みを浮かべる。
その穏やかな微笑みは、つがいに先立たれる前の……人間との繁殖実験にのめり込む以前の、先代陛下の笑みに似ていた。


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