四竜帝の大陸【赤の大陸編】
ハクの唇が、耳朶を下から上へとなぞる。

「りこ、りこよ」

後ろから、膝をついて私を抱き込むハクからは、彼の匂いが香り。
私は鼻からそれを意識して吸い込み、体内に送り込む。
香水とかは一切つけていないのに、ハクはいつだって良い香りがする。

「りこにも、我が足りないのか?」

何度も深く息を吸った私に気づき、ハクが言う。

あ。
ばれてる。

ハクの匂いをついつい嗅ぎまくってたのが、ばれてしまった!
うう、恥ずかしい……。
変態な妻で、ごめんなさい!

「……りこ」

ますます顔が上げられなくなってしまった私に、ハクが……。

「我も、りこが足りないのだ」

そう言って。
耳朶から唇を離し、身を屈めて私の顔を覗き込む。

「真っ赤だな。熟れたアダの実のようだ」

アダの実、みたいに真っ赤……あ。

「……前にも、ハクはそう言ったよ?」

あれは、青の竜帝さんのお城にお引越ししたばかりの時だった。
私の頭突きで、ハクが鼻血を……うっ!?
ハクのこの顔に鼻血っ……あらためて思い出すとっ……。

「く、くっ……う、ふふっ。アダの実、甘酸っぱくて大好き……また、食べたいな。……あ、ハクの鼻血を思い出して笑っちゃって、ごめんなさい!」

笑ってしまったことを謝りながら、ハクを見ると。

「あ……」

そこにあったのは。
温かさ。
私だけに、与えられる温かな……冬の太陽みたいな、柔らかくて優しい温度を持った微笑み。

「今はアダの実ではなく。我を食べてくれるのだろう?」

私の身体に回された腕に、力が加わり。
夜着の襟を、長い指がなぞる。

「りこ。この温かな身体で」

合わせ目から這入ってきた真珠色の爪に飾られた指先が、私の肌を弾き。

「りこ。この柔らかな唇で」

赤い舌が、私の口角を舐るように這う。

「さあ。存分に、我を喰らってくれ」
「ハッ……ハクッ」

食らってくれと言いながら。
貴方の唇が、手が、指が私を食べていく。

「貴女限定で。我は食べ放題、なのだから」
「た、食べ放っ!? なに、言って……」
「りこ」

突っ伏していた床から剥がされるように、抱き上げられた胸で聞いたハクの言葉に。 

「今の我等にとっては。あの寝台が食卓、だな?」

答えるかのように、全身の血がざわざわ騒いで一気に沸騰した。
私の中に抑えきれぬ想いが溢れ、ぶわっと噴出した涙とともに熱い舌が舐めとったのは私の理性。

「りこ。貴女が我を生かす。この世で、唯一人」

残ったのは、剥き出しの。

「貴女だけが、愛おしい……」

貴方を愛する、私の本能。



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