四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第三十九話
 赤の帝都は、数千年前に隆起した巨大な岩頸に作られた要塞のような都だ。
 全ての方位が切り立った崖となっており、『下』にある関所で定められた手続きをとらねば人間はこの都へは入ることが出来ない。

 竜族だけでなく人間も自由に出入り可能な青の帝都とは違い、何故このような場所を帝都と定めたのか。
 理由は、翼を持たぬ害敵にんげんより身を守るためだった。
 千年程前、<赤の竜帝>ヴェリトエヴァアルは人間の娘をつがいにした。
 その結果、喪失を怖れるあまりその娘を喰らい、狂い……蛇竜に堕ち、多くの人間を殺して大地を焼いた。
それまでは四大陸の中で最も人間とうまく共存していた赤の竜族だが、ヴェリトエヴァアルが大陸全土にもたらした災厄により、以降はその関係は一変した。

 怖れ、憎しみ、嫌悪、侮蔑……ありとあらゆる負の感情が、赤の竜族に向けられるようになった。
 赤の竜族は危険な獣として迫害され、追い立てられ……狩られ、殺された。
 個体数が激減した赤の竜族が辿り着いたのが、世界に類を見ない巨大なこの岩頸だったのだ。
 人間共が容易には攻め込めぬこの地に、赤の竜族は城を築き街を造った。
 長命な竜族とは違い、短命種である人間達の記憶は口伝や書物での記録となり、千年の時を経てやがて伝説やお伽噺といった曖昧なものへと変化した。

 もちろん、自然にそうなったのではない。
 ヴェリトエヴァアル以後の<赤の竜帝>達は、ヴェリトエヴァアルが<赤の竜帝>であったという事実を永き時間をかけて人間達から遠ざけ、薄め……密かに書物を書き換え、口伝を歪め広めのだ。
 それにより<赤の竜帝>ヴァリトエヴァアルは人間達にとっては無かったことになり、炎獄より放たれた赤い魔獣の伝説や鮮血の悪魔などの胡散臭い存在へとすり替えることに成功した。
 だが、人々の血によって受け継がれた赤の竜族への嫌悪や怖れを取り除くことはできなかった……。
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