四竜帝の大陸【赤の大陸編】
……ヴェリトエヴァアル。
蛇竜となったお前の首を。
我が落とした、あの瞬間。
念話を通して我の脳に届いた最後の言葉は。
お前が愛し、喰らった。
人間の娘の名だった。
最後の一息まで、お前の愛はあの娘のものだった。
ヴェリトエヴァアル。
我が蛇竜となったら、お前は嗤うのだろか?
それとも……。
「……」
「…………ハクちゃん?」
上空をゆるりと流れる雲を眼で追った我を、りこが黄金の瞳で見上げていた。
青の大陸と違い気温の高いこの土地に合わせた涼しげな衣装の裾が、りこの動きに合わせてふわりと揺れた。りこは我と繋いだ手を軽く引き寄せ、言った。
「空がどうかしたの?」
「……あの雲の形が、知己に似ておったのだ」
ヴェリトエヴァアルの蛇竜形態に、似ていた。
蛇竜になると胴が細まり、異様に長くなって……竜というより、翼を持つ蛇のようになる。
「そう。……その人、もう亡くなっているのね?」
我は言っておらぬのに。
りこは、そう言い当てた。
「何故、分かった?」
「なんとなく……かしら」
「そうか。なんとなく、か……」
我は、りこと共に赤の城を"お散歩”中だった。
青の城とは建築様式が異なる赤の城に、りこは興味津々のようだった。
導師イマームとやらの愚行から四日が経ち、蜂の巣を突いたように騒がしかった城内も平時に近い状態になっていた。
そのため、本日よりやっとりこの好きな"お散歩”が解禁となったのだ。
我は、りこを城の中央庭園へと誘った。
象牙色のタイルが敷かれた中央庭園は、そこを囲うように浅い池が造れている。
池にはりこが好むであろう小さな赤い魚が、多数泳いでいた。
これを見たらりこが喜ぶと、我は考えのだ。
池には城の西にある花苑より摘まれた花が多数浮かべられおり、それを見たりこは綺麗だと感嘆し、我の思っていた通り、赤い魚が可愛らしいと喜んだ。
当初、我はりこと手を繋ぎ、並んで池を見ていたが。
水面を漂う花々の間から、そこに映った空を見て……あの雲に気が付き、天へと視線を上げたのだった。
「もしかして、昔の竜帝さん?」
「……」
りこは時々、鋭いのだ。
普段はおっとりして、少々鈍くすらあるというのに……そこがまた愛らしく、我は"きゅんきゅん”(ダルフェに習った表現なのだ)してしまうのだが。
うむ、鋭いりこも悪くないのだ。
「ああ、そうなのだ」
ふと、思った。
聞いたら、りこはどう反応するか。
「我が処分ころした、赤の竜帝だ」
「……そう」
りこは。
眼を細め。
「その竜帝さん、ハクちゃんのことが今も大好きだから、雲になって会いに来てくれたんじゃないかしら?」
そう言って、柔らかな笑みを浮かべ。
繋いだ手に、力を込めてくれた。
いつ殺したか、何故殺したかを問うことは無かった。
「………………そろそろ時間だ。ダルフェ達との待ち合わせの場所に向かうとしよう」
りこ、貴女は。
どうして、貴女は。
とても弱く脆いのに。
どうしてこんなにも、我に力を与えてくれるのだろう?
「はい、ハクちゃん。転移、よろしくお願いします」
転移先は、街にあるダルフェの父親の店……ひよこ亭、だった。
「……お任せ下さい、なのだ」
りこ。
我は、ヴェリトエヴァアルと同じように人間のつがいを得たが。
あれのような最後を、迎えたいとは思わない。
我はもう、死を羨むことはない。
貴女によって、変わった我は。
こう思えるように、なったのだ。
生きたい、と。
思えるように、なれたのだ。
我という存在が、この世界と共に消え失せるその時まで。
貴女と、生きたいのだ。
貴女と、生きたい。
蛇竜となったお前の首を。
我が落とした、あの瞬間。
念話を通して我の脳に届いた最後の言葉は。
お前が愛し、喰らった。
人間の娘の名だった。
最後の一息まで、お前の愛はあの娘のものだった。
ヴェリトエヴァアル。
我が蛇竜となったら、お前は嗤うのだろか?
それとも……。
「……」
「…………ハクちゃん?」
上空をゆるりと流れる雲を眼で追った我を、りこが黄金の瞳で見上げていた。
青の大陸と違い気温の高いこの土地に合わせた涼しげな衣装の裾が、りこの動きに合わせてふわりと揺れた。りこは我と繋いだ手を軽く引き寄せ、言った。
「空がどうかしたの?」
「……あの雲の形が、知己に似ておったのだ」
ヴェリトエヴァアルの蛇竜形態に、似ていた。
蛇竜になると胴が細まり、異様に長くなって……竜というより、翼を持つ蛇のようになる。
「そう。……その人、もう亡くなっているのね?」
我は言っておらぬのに。
りこは、そう言い当てた。
「何故、分かった?」
「なんとなく……かしら」
「そうか。なんとなく、か……」
我は、りこと共に赤の城を"お散歩”中だった。
青の城とは建築様式が異なる赤の城に、りこは興味津々のようだった。
導師イマームとやらの愚行から四日が経ち、蜂の巣を突いたように騒がしかった城内も平時に近い状態になっていた。
そのため、本日よりやっとりこの好きな"お散歩”が解禁となったのだ。
我は、りこを城の中央庭園へと誘った。
象牙色のタイルが敷かれた中央庭園は、そこを囲うように浅い池が造れている。
池にはりこが好むであろう小さな赤い魚が、多数泳いでいた。
これを見たらりこが喜ぶと、我は考えのだ。
池には城の西にある花苑より摘まれた花が多数浮かべられおり、それを見たりこは綺麗だと感嘆し、我の思っていた通り、赤い魚が可愛らしいと喜んだ。
当初、我はりこと手を繋ぎ、並んで池を見ていたが。
水面を漂う花々の間から、そこに映った空を見て……あの雲に気が付き、天へと視線を上げたのだった。
「もしかして、昔の竜帝さん?」
「……」
りこは時々、鋭いのだ。
普段はおっとりして、少々鈍くすらあるというのに……そこがまた愛らしく、我は"きゅんきゅん”(ダルフェに習った表現なのだ)してしまうのだが。
うむ、鋭いりこも悪くないのだ。
「ああ、そうなのだ」
ふと、思った。
聞いたら、りこはどう反応するか。
「我が処分ころした、赤の竜帝だ」
「……そう」
りこは。
眼を細め。
「その竜帝さん、ハクちゃんのことが今も大好きだから、雲になって会いに来てくれたんじゃないかしら?」
そう言って、柔らかな笑みを浮かべ。
繋いだ手に、力を込めてくれた。
いつ殺したか、何故殺したかを問うことは無かった。
「………………そろそろ時間だ。ダルフェ達との待ち合わせの場所に向かうとしよう」
りこ、貴女は。
どうして、貴女は。
とても弱く脆いのに。
どうしてこんなにも、我に力を与えてくれるのだろう?
「はい、ハクちゃん。転移、よろしくお願いします」
転移先は、街にあるダルフェの父親の店……ひよこ亭、だった。
「……お任せ下さい、なのだ」
りこ。
我は、ヴェリトエヴァアルと同じように人間のつがいを得たが。
あれのような最後を、迎えたいとは思わない。
我はもう、死を羨むことはない。
貴女によって、変わった我は。
こう思えるように、なったのだ。
生きたい、と。
思えるように、なれたのだ。
我という存在が、この世界と共に消え失せるその時まで。
貴女と、生きたいのだ。
貴女と、生きたい。