四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第四十三話
旦那が“うっかりミス”なんてしないように、武闘会までには俺がなんとかすることにして。

「…………で、契約術士の面談ってのはどうだったんだよ?」

 俺は、この件も気になっていた。

「予想外の好印象だったわ。彼を採用したいと思っているの。私の可愛い竜騎士達のためにも、ね……」
「ふ~ん、当たりだったんだな」

 契約術士がいないと、対術士用結界がはれないから必然的に赤の竜騎士達の負担が増す。
 特に"表の仕事”の時には、契約術士がいたほうが便利だしな。
 ずっと契約術士がいねぇのは、母さんに許可をとらずにあの馬鹿術士をポイ捨てした俺のせいなわけで…… あの頃は青の大陸に移ることになるなんて考えもしなかったからな~。
 新しい契約術士が見つかるまで俺が三倍働きゃいいだけだなんて、お気軽に思っていた……結果、突然、団長だった俺はいなくなるし、契約術士もいないなんて事態になって、竜騎士団の奴等に迷惑かけちまった。

「でもよ、彼ってことはそいつは男だろ? 俺的には、男はあんま薦められねぇんだけどなぁ~」

 前の契約術士が父さんに悪意あるちょっかいを出すようになったのは、母さんが原因だ。
 人型の赤の竜帝は息子の俺から見たって、そんじょそこらにはいない極上の良い女だからな。
 あいつは軽蔑して見下していた"大蜥蜴の親玉”なんぞに惹かれた自分を認めたくなくて、どんどん歪んでいっちまったんだろう……。

「なり手がいないんだから、仕方ないでしょう? ふふっ、美しすぎるって罪よね」
「はぁ? 自意識過剰なんじゃね? それ、絶世の美女顔の青の陛下前でも言えるのかよ?」
「<青>と比べないでよ! ……はい、これが彼の履歴書よ」

 差し出されたそれを受け取り、書かれている文字を眼で追った。

「ん~……ロワール・ムシェ、二十六歳。へぇ~、若いな……出身地は旧アンマルクト国……ここって、王位継承争いで揉めてる最中に隣国に攻め込まれて属領になったんだっけ? ……両親他界後、十歳で術士協会幼年教育部に保護され、以後、術士として学び……十八歳でドラーデヒュンデベルグの皇宮術士第三位として勤務。二十四歳で退職し、術士協会幼年教育部准教授に就任。……二十六で准教授!? 正規術士の中でもエリート様じゃねぇかっ!」

 なんでこんなまともな経歴の術士が、わざわざうちの契約術士に立候補してくれたんだ?
 他に金払いも待遇も良い就職先が、いっぱいあるだろうに……うさんくせぇな~。

「星持ちの術士だというのに高飛車なところもなく、竜族に偏見も悪意もない静かで温和な青年だったわ。彼ならうちの竜騎士達といがみ合うことなく、仕事ができるんじゃないかしら……あとは実技試験次第ね」

 実技試験次第、か。
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